――


「……」


目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

寝る前に軽く纏めた髪をほどき、制服に着替えて鏡の前で笑って見せる。

大丈夫、何も変わらない私だ。彼と初めて出会った時も、昨日の時も何かあっても変わらずに笑えている。

鏡の前の私に頷きを見せて、そして顔を洗い歯を磨き髪を整えて、ようやく私はリビングに訪れるのだ。

家族の前でさえ、身形に気を使うようになった。それすらも私の努力なのだ。


「おはよう。パパ、ママ」

「おはよう。祈」

「あら、おはよう」


出来るだけ可愛い私でいて、可愛がってもらう為に。

リビングに入って先ずすることは、パパとママの位置確認。

今日もパパは仕事に行く前にソファーに座ってテレビを見ている。ママはキッチンで炊事をしてている。


そうしてから私はまた笑っていい子を演じるのだ。


「パパ、今日は気になるニュースとかある?」

「特に……ないかな。さ、朝ごはん食べないと遅刻するぞ」

「はぁい」


ソファーに近寄って他愛もない会話。

「ママ、ご飯食べたら洗い物するからシンクに置いといていいよ」

「あら、いつもありがとう。もし急ぐなら気にしなくてもいいからね」


家事も手伝ってみたりして。理想の家族を偽装するなんて簡単だ。