噎せ返る鉄臭さと口内を犯す鉄臭さ。
危険思想だと思われるのに彼は笑いもせず怒りもせず泣きもせず、ただ平然としていて、狂気などと言うものは微塵にも感じられなかった。
言うなれば癖。違う、ヘキ、そう只の性癖。
手首を私の口に押し当て、言う。
「俺、こんな事しても過剰反応しないとこ好き」
止めたり、泣いて見せたり、怖がって見せたり、命を諭してきたり。そんな事をしない所が。と言った。
無意識に集まる口内の唾を飲み込めば彼の血と共に私の中に入ってくる。
今度こそ本当に噎せてしまいそうになった時、彼は気付いたのかパッと手首を遠ざけた。そして言った。
「もし俺といて、死んだらごめんね」
青白い顔をして、そんな事微塵にも思ってない表情をして。
「私、透佳さんに殺されちゃうんですか?」
「さあ、どうだろ?」
きっと問いかけている。このまま俺と一緒にいるのかと。
答えを、決断を、いつだって彼は私に委ねるのだ。
何処にも見つかりはしないそんな答えを。