この気持ち悪いオジサンから逃れるには、と考えて真っ先に思い浮かぶのは叫ぶ事。同時に思い浮かぶのは、その後の事。
騒ぎになった場合、学校に家に連絡が行くのだろうか。そうなれば、両親に迷惑が掛かる。最悪学校で噂になろうが未遂なので構わないが、親に迷惑が掛かるのは避けたいことだ。ならば。
「……気が変わりました。オジサン、いいとこに連れていって下さい」
自力で抜け出して隠すしかない。
「そうこないと」
ニヤリと、オジサンは笑う。だから私も笑ってみせる。
大丈夫、作り笑いは得意だ。声色だって作って見せる。この気持ち悪い大人は可愛い女子高生がきっと好きなのだ。
「手、痛いんで離してくれます?手首痛くなると、オジサンに何もシてあげられなくなっちゃいます」
「何してくれるのかな?」
分かりやすく、顔が緩む、手も緩む。抜け出すにはまだ早い。
「オジサンを気持ちよくする事、ですよ?」
「意外と、言うね。君」
ああ、気持ちが悪い。履きそうだ。が、今だ。今が一番力が弱い。
「っ!」
私は勢いよくオジサンの手を払い、鞄を持って走った。ひたすらに走った。
行く宛などないのに、逃げ場などないのに。
追いかけてくるのだろうか。怖い。凄く、怖い。
怖い怖い怖い。
私は私だけのものだ。
「何してんの、アンタ」
「っ!?」
駅前を通り過ぎようとした時、聞き慣れた声が耳に届いた。


