ハッとして下がりかけていた視線を千代に戻す。
映ったのは千代の真剣そのものの表情だった。
「最近、何か悩んでる?」
聞かれたことを頭で反芻させる。
悩んでる事なんてきっと沢山ある。それは最近のものから昔の物まである。
けれど、一つだって言えるわけがない。
可愛くていい子で清純な私。そうしていないといけないのだ。ニコニコ笑って年頃の可愛い女の子で居ないといけない。
それはもしかすると一種のプライドだったのかもしれない。常に良いように見せたい、同情されたくもないと。
「えー?何も悩んでないよ?何か変だった?」
「何か最近考え事してる事多いみたいだから」
やはりいつも一緒にいれば多少なりとも気付かれてしまうらしい。
「西君の事とか相談乗ってもらってたし、もし祈も何か悩んでるんなら私……」
「あはは。大丈夫だって。別に悩んでる事なんてないし」
精一杯誤魔化しながらも、それでもちょっとした変化でも気にしてくれることが、とても嬉しくて仕方がなかった。やっぱり私は自分がよほど可愛くて自己愛に溺れているらしい。
「それならいいけど……」
「うん。ありがとね、千代」
もっともっと私を見てほしい。気に掛けてほしい。
そんな私は醜くて汚くて仕方がなかった。