少しずつ後ずさる。彼は無表情に私を見て話すだけ。
「何、今更。分かってたんじゃないの、俺がこういう奴だって」
いつもと変わらないのに今回は怖いと感じた。久々の感覚に身震いさえする。何故だろう。
心の何処かで彼を否定する気持ちがあった？そんな筈ない。
何でもいい、私は彼を受け入れる。それだけの筈だった。
「……分かっていましたよ？けど、やっぱり実際聞いちゃうと気持ち悪いです」
身震いしながらも、ぐっと堪え、いつもの調子で返した。
けれど、返ってきた答えは彼らしい……彼だからこそする返答だった。
「気持ち悪いから何？気持ちよくなれるならそれでいいじゃん」
開き直ったようにも見え、悪びれた様子もない。明確な関係は私と彼の間にないと認めざるを得ないが、それでも、その手が別の誰かに触れただなんて許せない。
自分勝手なことだけれど。と、この事は分かるのに、身震いした理由がやはり分からない。感情が行動に噛み合いそうになかった。
「ね、俺がどんな思いでアンタを待ってたか分かる？」
そんな事を言い出す相手も自分勝手だ。
