はっと我に返って私から離れ、カバンを手に取って半開きのドアをすり抜けて雨宮くんが出ていく。


「じゃ、じゃあな、柏木! 今日はありがとうな」


「う、うん……」


慌てて出ていく雨宮くんの姿を呆然と見つめる。


そして彼の姿が視界から消えた瞬間、私は脱力してその場でペタッと座り込んだ。


心臓が止まるかと思った。


お母さんの声が聞こえてこなかったらどうなっていただろう。


そこまで考えたところでブンブンと首を思いっきり左右に振る。


床に座り込む私に、階段を上ってきたお母さんがひょこっと顔を覗かせた。


「梨沙。さっきの男の子、誰なの? 彼氏?」


どうやら帰る直前の雨宮くんを見たらしい。


自分の彼氏だと話したらめんどくさいことになりそうだ。


「同じクラスの男子。仲がいいから、家に連れてきちゃった」


「そうだったの」


仲がいいわけではないけど、クラスメイトであることに変わりはない。


予想どおり、お母さんは私の返事に納得する。


「梨沙、そんなところに座り込んでどうしたの?」


突然話を変えるお母さんに驚きながらも、私は笑ってこう答えた。


「正座してたら足がしびれちゃったみたい」


そう言ったとき、絵のほうから視線を感じた。


だが私は必死に気づかないフリをして笑い続けていた。