水月夜

右隣を歩く聖奈が私のほうに顔を覗き込んだ。


私がなぜ声をあげたのかたしかめたいようだ。


だが、私が答える前に、雨宮くんが久保さんのうしろ姿に気づいた。


「なぁ、梨沙。前を歩いてるのって、久保ってやつじゃね?」


「た、たぶん……」


私としては言ってほしくはなかった言葉だったのだが、言ってしまったものは取り戻せない。


曖昧な表情で答える私に、聖奈と天馬くんは頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。


それは当然だ。


ふたりは久保さんを知らないのだから。


「……久保さんって誰?」


疑問を口にしたのは聖奈だった。