水月夜

天馬くんは、雨宮くんが私のことを“梨沙”と呼び方を変えたことに気づいていない。


「梨沙が緒方に襲われそうになってたんだよ」


「えぇっ⁉︎ マジ⁉︎」


雨宮くんの言葉は、天馬くんの近くにいた聖奈の耳に届き、聖奈は目を見開きながら叫んだ。


聖奈が驚くのは当然だろう。


「雨宮くん、それ本当なの⁉︎」


「なにが?」


「なにがって、緒方先輩よ! 緒方先輩が梨沙を襲ったこと!」


「そんなことでわざわざ嘘をつく必要ねぇだろ」


「嘘……本当に……?」


聖奈も、緒方先輩が私を襲うなんて想像していなかったのだろう。