口をつぐんで様子を見ている紀子の表情の意味がわからない。


いったいなにを考えているんだろう。


紀子の表情をじっと見つめていたことがバレたのか、紀子が我に返って私のほうに顔を向けた。


そして、口パクでこう言う。


『今のは忘れて』


忘れて?


そんなこと言われても、私に対して適当な対応をする紀子の言葉には信用性に欠ける。


だから、『忘れて』と言われても忘れることがどうしてもできない。


でも、さっきの紀子の表情はいったんスルーしておこう。


心の中でそうつぶやき、直美とヒロエに再び視線を向ける。


どうやら私が紀子に目を向けたあと、ヒロエは直美の機嫌を取り戻すことに成功したらしく、直美と楽しそうに話している。


さすが直美のひっつき虫的存在のヒロエ。


一緒にいる仲間の機嫌をすぐに取り戻すなんて。


私も直美の機嫌を損ねたらすぐに『ごめん』って謝るけどね。


昨日直美に足が速すぎだからペースを合わせてほしいと注意されたとき、私は『ごめん』と謝り、謝る私を見た直美は満足そうな顔をした。