私に元気よく声をかけてきたと思ったら、緒方先輩のことか。


深いため息をつきたくなる。


だけど、直美の前で深いため息はつけない。


ため息をついたあとの直美の反応が目に見えているし、私がどうなるか想像できるから。


だから適当に相づちをうつことができず、ちゃんとした返事をしなければならないのだ。


「そうなんだ、すごい偶然だね」


「でしょ。私、昨日まで緒方先輩の連絡先知らなかったけど、さっき教えてもらったの! それで思ったの、『もしかしたら緒方先輩は私のこと好きじゃないか』って。もし先輩と付き合うことになったらどうしよう!」


「頑張れ直美、私は直美の味方だからね」


「ありがとう、梨沙! 本当、梨沙は優しい!」


直美に『優しい』と言われても『ありがとう』とは言えない。


『頑張れ』という言葉も本音ではない。


心の奥底にしまわないと、直美の前で本音がこぼれてしまいそうだ。


『そもそも緒方先輩のこと知らないし。一緒に教室まで歩いたって言われても困るんだけど』