水月夜

まるでなにごともなかったかのように。


息を切らしながらこちらにやってきた久保さんに、私は頭をさげた。


「り、梨沙ちゃん、どうしたの⁉︎」


「ごめんなさい、久保さん。久保さんを置いて、勝手に行っちゃって……」


久保さんだけではない。


雨宮くんまで置いて、ひとりで歩いたんだから。


自分の行動に心の中で後悔した直後、頭の上になにかが乗る感触がした。


おそるおそる顔をあげると、久保さんがやわらかい笑みを私に見せていた。


「気にしなくていいよ。梨沙ちゃんは急ぎたかったんだよね」


すごく急いでいたかと言われたら嘘になる。