水月夜

そう。私の肩をうしろから掴んだのは雨宮くんだったのだ。


視界に映る雨宮くんは、私の顔を見て安堵の表情を浮かべた。


「……よかった、お前が見つかって」


安心している雨宮くんを見ると、わけもなくこっちまで安心してしまう。


私は、雨宮くんの顔をじっと見つめはじめた。


いつも冷静沈着な雨宮くんが久保さんに嫉妬し、顔を赤くし、安堵の表情を見せたのがはじめてだったから。


しばらく見つめていたとき、数メートル先から声が聞こえた。


「おーい、梨沙ちゃん!」


久保さんだ。


私が久保さんだと理解したと同時に、雨宮くんが私の肩を掴んでいた手を離し、そっぽを向いた。