水月夜

全身が心臓になったかのような感覚に襲われる私を完全にスルーして、雨宮くんがコソッと私の耳もとでこうささやいた。


「……その久保ってやつ、柏木のなんだよ」


「えっ……」


なんだよって言われても。


久保さんは私の彼氏じゃないし、男友達というわけでもない。


ただ近所に住んでるっていうだけだよ。


「……なんでその男に“梨沙ちゃん”って呼ばせてるんだよ」


「べつに呼ばせてるわけじゃ……」


「俺、彼氏なのに、柏木のこと下の名前で呼んだこと一度もねぇし」


心なしか、そう言ったあとの雨宮くんの顔が少し赤い。