その声でそっと顔をあげたが、雨宮くんとの距離がいつの間にか縮んでいたことにびっくりして、また顔をうつむかせてしまう。


「き、気のせいだよ」


雨宮くんに向けて言ったはずなのに、なぜか言葉が自分自身に戻ってきたような感じがする。


胸が痛くなったけど、それに気づかないフリをして雨宮くんから離れ、慌てて自分の席に座る。


しかし、私から離れたはずの雨宮くんが、ひっつき虫のように私の席にやってきた。


こちらにやってきた雨宮くんの表情は、さみしさがにじみでたものだった。


「気のせいじゃないだろ。柏木の表情を見れば嘘だってことくらいわかるよ」


……気のせいじゃないって気づいてたの?


ニヤニヤしていないときもわかりやすい表情をしてるのかな。


お母さんにも雨宮くんにも表情を指摘されたから、私は嘘をつくのがヘタなんだろう。


そう思っていると、うしろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「おはよ、梨沙!」


「おはよう、直美……」