水月夜

屋上まで連れてきたのだからなにか重要なことなのかと思ったが、千尋のことだと聞いてほっとした。


安心する私をチラッと見ながら、直美は話をはじめる。


「今日の朝、猪狩が死んだって先生が言ってたじゃない」


「あっ、うん。そうだね」


直美の言葉に慌ててうなずいた。


今日家を出る前に見た『水月夜』を思い出す。


着替える前にチラッと見た『水月夜』は、やはり千尋の死を表していたらしく、朝のホームルームで担任の先生が千尋が死んだと言っていた。


『昨日の夜、猪狩千尋が学校裏で死んでいるのが見つかった』


今朝のホームルームで言っていた担任の先生の言葉が頭の中で再生された。


昨夜に千尋が死んだと聞いて、今朝見たニュースをも思い出した。


千尋の家が火事になって両親が死んだのに千尋の名前がなかったのは、火事が起こる前に千尋が死んでいたからだと推測できた。


学級委員の千尋が死んだということでさすがの直美も午前中は黙っていたが、昼休みになってようやく千尋のことを口にした。