顎に手が伸びてきて、上を向かされた。
「だよね~…。きゃ~!」
「お。お邪魔しました‼」
「きゃあ!」
印刷室に入ってきた女性たちの声なんて、耳に入って来なかった。
唇に触れた感触に頭が真っ白になる。
「っ…」
知らない唇の感触に気持ち悪くなる。
手の甲でゴシゴシと自分の唇をこすった。
どれだけ拭っても足りない。
視界が徐々に歪んでいく。
ポロポロと涙がこぼれた。
「…なん、で…こんなっ」
そこまでしか言葉にならなかった。
1秒でもここにいたくなくて…。
森谷くんの顔を、今は見たくなくて…。
人に会わないようにトイレへと走った。



