「成宮くん!」


「セイジ」


「へっ?」



美術室に入って、開口一番。


初めて普通に堂々と成宮くんに話しかけた私に返ってきたのは、何故か成宮くんの名前だった。


わけがわからなくて、言おうとしてたことが吹っ飛ぶ。



「セイジって呼んで。俺、苗字で呼ばれるの好きじゃないんだ」


「そうなの?」


「うん。…名前もあんまり好きじゃないけど、マシだから」


「えぇと…じゃあ、セイジで」


「うん」



満足そうな顔でキャンバスに向き合い直してしまったセイジに、その場で立ち尽くす。


…って、違くて。

私にも用事があったのに。


一瞬で真剣な顔に戻っちゃっているものだから、連続で話しかけてもいいものかと悩む羽目になってしまった。



まあ…いいか。後でも。


まだ部活に来たばかりだし、終わりがけにまた話せばいいや。



話しかけるのを諦めて、自分の画材の前に戻る。


それに反応して、隣に画材を広げていた高ちゃんが顔を上げた。



「随分と珍しいですなぁ〜」


「うん?何が?」


「いやいや、エリカが成宮と話してるの初めて見たから。
というか、男子と話してるイメージがないし」


「確かに男っ気はないけど…」



それでも普通に男の子とも話すよ。多分。


確かに用事もなく話したりはあんまりしないかもしれないけど…。