誰もいなくなった準備室に、静寂が訪れる。



まだ、胸の高鳴りが消えない。



目を閉じたら思い出す、迫力のあるあの花。


トゲトゲしくて、ふんわり花開いて、いろんな色が溶け合っていて、統一された小さな花。



大きく描かれていたのに、その儚さはモロに伝わってきた。



忘れられない。



道端に咲いている花はすぐに忘れるのに、花畑を見てもこんなに気になりはしないのに、自分が描いたものも、細かいところまでは覚えていないのに。



たった一瞬見ただけのそれは、ずっと頭の中にこびりついて離れない。



今までどんな美術展の絵を見たって、こんな気持ちにはならなかったよ。



あぁ…せめて名前、見ておけばよかったな。



あの絵を描いたのは、一体誰だろう?


どんなタイトルだったんだろう。


あれを描いた人には、一体何が見えているんだろう?



もう一度、見たい。


描いた人に会ってみたい。



あんなに力強くて儚い花は、本当に存在するのかな?



私の頭は、そんな余韻に支配されていて。


私の人生の中で、あの瞬間が一番感動した瞬間であると断言してもいいほど、その絵は私の心を占めたのだった。