「ひな」


廊下で私を呼び止めたのは、悠だった。


「今日は忘れ物しなかった?」
「おう。バッチリ」
「それはよかった」
「今夜、友梨さん夜勤?」


友梨、とは私の母の名だ。


「うん。そうだけど――あ、食べに来たい?」
「バレたか」


ニッと口角を上げる、悠。


「いいよ」
「マジ?」
「なにがいい?」
「ハンバーグ!」
「好きだよね。昔から」
「唐揚げと一二を争うな」
「定番すぎるね」
「チーズインハンバーグ」
「了解」
「あのさ」
「なに。卵も乗せる?」
「気をつけてな、帰り」
「……え?」
「今朝、担任から話なかった?」


そう言われ、あることを思い出す。


「小学生が、行方不明なんだっけ」
「いなくなった子。俺らの母校の女の子らしいな」


テレビやニュースでは幾度となく目にしてきた事件も、実際に身近で起きると、現実味が増す。


「はやく見つかるといいね」
「だな」
「私のこと心配してるの?」
「まーな」
「平気だよ。帰るの明るい時間だし。飴もらってついてくと思う?」
「そんなこと言っても。ひなだって、女の子だろ」