「うーっす」


そう言って教室に入ってきたのは――。


「って。どした、宇崎」
「……転び、ました」


栗原先生。


先生。


先生が、こんなに、近くにいて。


私を見てくれている。


「ん」
「……え?」
「掴まれよ」


大きな手を差し出され、慌てて立ち上がる。


掴みたかった、けど。
掴めなかった。


触れられなかった。
触れたかった、のに。


「くりりん、拒否られてんじゃん」
「王子様みたく登場しようとして失敗したパターン」


先生と仲のいい男子が先生をからかっている。


失敗なんてしてないよ。
先生は、きっと、なにをしていても私の王子様で。


「出席の点呼は省略」
「ハイハイ」


そんな適当なことを言っていても。


「諸連絡は色々とあるが省略」
「それはマズいだろ」
「日程表と連絡のプリント、うしろの掲示板に張っておくから。各自でチェックしててくれ」
「はーい」
「では、諸君。朝の読書の時間を楽しもうか」
「楽しみたいのくりりんでしょ」