【名前を呼ぶ価値もない】
「はじまりは、ジャクソンにバスケットボールをぶつけられた事でした。それまで僕は、いじめとは無縁だった。それなのにいきなり、顔面に思いっきりボールをぶつけられた。鼻血が出て保健室に行って教室に戻ってきた時には、机がなかった。かばんも靴も、なにもかもなかった。その時点でもう、僕の存在自体が捨てられたんだ」
こんこんと語られる、いじめの始まり。
ある日、突然、居場所がなくなる。
机、椅子、なにもかも捨てられ、自分の場所さえも壊されていく。そしてそれが続けば当然、心が壊れていくのだろう。
「服を脱げと言われ、抵抗すると髪の毛を坊主にされた。みんなの前で全裸にされ、机の上で踊らされた。それを携帯で撮られ、SNSで拡散されたくなかったら、金を持ってこいと言われた。もし誰かにバラしたら殺すと脅されて、もう持ってくるお金がないと言うと、自殺しろと言われた。保険金で払えって__こいつは僕に笑って言ったんだ」
壮絶ないじめの実態を明かす、和久井。
聞いているだけで、心が痛くなってくる。
そしてそれを、助けもせずに囃し立てていた。黙認していた俺も、きっと同罪だろう。
和久井はジャクソンを責め立てているようで、実際は俺たちのことも糾弾している。
だが、ジャクソンは顔色ひとつ変えない。
俯くことなく、この世に今井しか存在していないかのように、睨みつけていた。