「お前は評決するにも値しないらしい」
そう言うと、今井は薄っすら微笑んだ。
叫び続けている村瀬。
どれだけ踠(もが)いても、今井の口を封じることはできない。
「村瀬敦也」
静かにその名前が呼ばれた。
暴れていた村瀬が、ぴたりと動かなくなる。
ゆっくり動く胸はまだ息をしていることを表していたが、すぐに「んっ‼︎」と声を上げ始めた。
きっと「はい」と返事をしているんだ。
何度も何度も、体全体を使って返事をしている。
名前を呼ばれたから。
返事をしないと、死んでしまうから。
「んっ、んー!んん、んーっ‼︎んっ、ん、ん‼︎」
必死で返事をする村瀬だったが、猿轡が邪魔をして言葉になっていない。
瞬く間に顔が真っ赤になり、土気色になる。
最後に「ぐんっ‼︎」と雄叫びを上げると、椅子ごとひっくり返った。
しばらくぴくぴくと震えていたが、やがて動かなくなる。
村瀬が死んだ。
有罪でも無罪でもないのに、死んだ。
悲鳴を上げるのは、反対側の世良幹夫。
同じように縛られ、猿轡をしたまま名前を呼ばれてしまえば、目の前の村瀬のようになる。気が狂ったように暴れるのも無理はない。
一方、真ん中で拘束されているジャクソンは、未だに今井を、今井だけを静かに睨(ね)めつけていた。



