「それでは、村瀬敦也の罪について審議を行う」
そう言って今井は、俺たちを__陪審員席のほうを見た。
普通の裁判なら【有罪】か【無罪】かを陪審員が話し合って決める。
もし有罪なら、罪を償う。それか無罪放免か。
運命を握っているのは、俺たちの【1票】というわけだ。
でもこの場合はどうなる?
村瀬が有罪なら、被害者の和久井に謝罪するのか?
とてもそんなことでは、和久井の怒りはおさまらないように思うが__。
「村瀬が有罪だと思うものは、手を挙げなさい」
「えっ?」
全員の口から漏れた。
「なにを驚いてる?多数決は民主主義の要だろう?もう一度だけきく。村瀬が有罪だと思うものは手を挙げなさい」
改めて促されるが、俺たちはお互いの顔を見合わせる。
陪審員は全員で11名。
同数はあり得ないということになる。
有罪か無罪なのか、はっきり決まるというわけだ。
いや、どう考えても【有罪】だろう。和久井をいじめていたことに、弁解の余地もない。
けれど、俺たちは誰も手を挙げなかった。有罪になれば、村瀬はどうなるのか?
そのことが頭を過(よ)ぎったからだ。
涙目で俺たちを見ていた村瀬が、ホッと力を抜いたが__。
「そうか。それじゃ、無罪だと思うものは手を挙げてくれ」
裁決を取る今井が、手を挙げながら言った。
果たして村瀬は【無罪】なのか?