その時。


「ご、ごめん」


いきなり泣き出したのは、知念瑠璃(ちねんるり)だった。


泣き声はどんどん大きくなっていく。


「どうしたの?大丈夫?」


洋子が肩を抱いて尋ねる。


「うち、うちがっ、うちが咳をしたから、だからっ」


「そんな、知念さんのせいじゃないよ」


「でも、でもっ、うち」


涙が止まらないのか、洋子に抱きついてしがみついている。


自分のことを【うち】という知念は、まだ沖縄から転校してきて日が浅い。ようやくクラスに溶け込み始めたところだ。


知念なりに責任を感じているのかもしれない。


あの時、咳さえしなかったら、ジャクソンが今井を叩きのめして、江東奈美は助かったかも__。


「泣かないで。知念さんのせいじゃないから」


「でも‼︎」


急に顔を上げた知念は、みんなの顔を見回す。


「絶対にやっつけてほしい。あんなやつ、先生じゃない!」


沖縄独特のイントネーションで、そう言い切った。


改めて全員の顔が引き締まる。


ジャクソンも、掴んでいた俺の襟首を離す。


「タイミングを見て、不意打ちで襲う」と。


みんなの気持ちが一つになった時、チャイムが鳴った。


俺たちは席につく。


今井が__俺たちの担任が教室に入ってくるのを静かに待った。