「水口智花」


「__はい」


「この問題、解きなさい」


「村瀬敦也」


「は、はい!」


「お前にこれが解けるか?」


それからも今井は、問題を黒板に書いては生徒の名前を呼んで、答えを急かした。


それはまるで、自分より弱い小動物をいたぶるかのようで__。


それでもみんな、なんとか正解を書いて食らいついていた。


もし、もし誰かが間違うようなことがあれば、その時は一斉に襲いかかる。俺が飛び出せば、後から小金沢たちが加勢してくれるはずだ。


「江東奈美」


「えっ__はい」


「これはかなり難しい問題だが、解けるかな?」


今井が、優しい笑顔を浮かべる。


それはずっと、江東が泣いているからなのか?


だからか?


だから、あんな誰でも解けるような引き算を書いたのだろうか?


誰もが首を傾げていた。


はた目にもビクつきながら、立ち上がった江東。


鼻を啜りながらではあるが、ゆっくりと黒板に歩み出る。


指先でチョークをつかみ、答えを書いた。


【30一14=16】


あんなの、小学生だって解ける。


「正解だ。拍手」


今井が1人で手を叩く。


ホッと胸を撫で下ろし、江東は席についた。


でもなんで、あんな単純な算数をいまさら__?


嫌な予感が、的中したんだ。