ごくり。
洋子が思わずツバを飲み込んだのが聞こえてきた。
答えられなかったら、死ぬ?
それなのに洋子は、すっと立ち上がった。
矢井田ミキが答えられないと知っているからだ。
しっかりした足取りで、教壇の向こうの黒板に向かう。
チョークを手に、俺でも正解できるか自信のない問題を解きにかかった。
【3√】
そう書き始めた√が、激しく震えていた。
自分でも震えが止められないように、チョークを持つ右手を左手で包み込む。
「どうした?自信満々でしゃしゃり出てきて、答えられないのか?」
容赦ない、今井の嫌味。
もし「片平洋子」と名前が呼ばれることがあるなら、その時は迷うことなく今井を殺(ヤ)る。
俺がわずかに腰を浮かせた時、両手を握りしめ、祈るように項垂れていた洋子が顔を上げた。
再び、黒板の数式に取り組む。
その手はもう、震えてはいなかった。
書き終わった洋子が、チョークを置いて今井と睨み合う。
「正解だ」
みんな拍手、と手を叩く今井だが、誰も後には続かない。
席に戻る途中で、洋子と目が合う。
俺たちは頷き合った。
どこかで、どこかのタイミングで動かないといけない。
今井から、主導権を奪い取るんだ。
そのためなら、殺したって構わない__。