「矢井田ミキ」


不意に、今井がその名を呼んだ。


呼ばれた当人は「ひっ‼︎」と息を飲み込んだが、すぐに返事をした。


全員、もう分かっている。


名前を呼ばれても、返事さえすればいいのだと。


「この問題、解いて」


ぶっきらぼうに今井が言い放つ。


仕返しだ。


ギャルグループに属する矢井田ミキが、解けるわけがない。


これまで、担任である今井のことを『うざい』や『きもい』とバカにしてきた、その仕返しなんだ。


いつもの強気な姿勢は微塵もなく、ただ怯えて立っている。


「やーいーだーみーきー」


粘っこく名前を呼ぶ今井に対し「は、はい」と繰り返し返事をする矢井田。


これじゃ、まるで公開処刑じゃないか?


「こんな問題が解けないのか?バカでも分かるような問題がー?」


そう言って、今井が強く黒板を叩いた隙に、隣の席からすっとメモが回ってきた。


紙を開く。


【今井をヤるか?】


紙に書ききれないくらい大きな字は、書いた人物の力強さが現れている。


顔を上げると、小金沢篤と目が合った。


確かに、名前を呼ばれなくすればいい。そのためには、今井の口を封じてしまえばいいだけだ。


教室にはまだ、10数名の生徒が残っている。


一斉に襲いかかれば、今井を袋叩きにすることもできるだろう。


今井を殺(や)るなら、今のうちだ__。