遠い昔の記憶が、蘇った。
そうだ。
楠木の名前は【らいと】ではなく【あずま】だ。
担任になったあの日、ジャクソンに乱暴に歓迎された。
熱いやる気に、冷や水を浴びせられてショックだったあの日。
声を掛けてくれた生徒がいた。
それが、楠木だ。
似たような名前に共感を覚えて、心が温かくなったことを思い出す。
名前が違っていたことより、僕のことを気遣ってくれる生徒がいたこと、そしてそれをすっかり忘れていたことに、今更ながら驚いた。
『先生』と、呼びかけてくれた生徒がいたこと。
「結局『お前』は、俺たちのこと何も分かっちゃいない」
楠木の声が、耳元でした。
そうなのか?
僕が、分かっていなかったのか?
分かろうとしなかったのか?
歩み寄ることを、諦めたのか?
「く、楠木っ」
あずまっ。
下の名前を呼んだ瞬間、口から血を吹き出した。
もう、名前を呼ぶことはできないだろう。
喉が熱い。
炎が迫っているからじゃない。
名前を呼べないよう、喉仏に突き立てられたからだ。
楠木が突き刺したナイフが__。
「あっ、あ、、、」



