そう耳元で囁き声がし、僕は悲鳴を上げて飛び退いた。
我がお城である【教壇】から、転げ落ちる。
よろめいて足をもつれさせ、尻もちをついたまま見上げる。
「ど、どうして__⁉︎」
「どうって?俺が生きてるのが、そんなに不思議か?」
「な、なにかの間違いだ!」
僕は大きく、息を吸い込む。
名前を呼ぶんだ。
これまでそうしてきたように、生徒の名前を呼んで、死に追いやる__。
「楠木雷人!」
怒号にも近い声はでも、炎が渦巻く音にかき消されていく。
楠木は口を閉じまま、首を僅かに傾けるだけ。
返事はしない。
「く、楠木雷人‼︎」
反対側に首を傾げ、骨を鳴らす。
返事をしないままに。
「どうして?返事をしないのに、どうして⁇」
「わからないのか?」
「えっ?」
「楠木雷人、俺のこの名前を呼んで返事をしないのに、俺はこうして生きている。その理由が、わからないのか?」
「まさか__名前が、違う?」
自分に問いかける。
楠木雷人、くすのきらいと、なにが間違っている?
名前か?
らいと、が違う?
かみなり、ひと__いや、違う。頭のどこかでは分かっているのに、分からない。埋もれた記憶が呼んでいるのに?僕は__僕は知ってる。思い出せ。
思い出すんだ!
「苗字が2つ」
楠木が言った。
その瞬間、僕の記憶が弾け飛んだ。



