炎が舞い上がる。
火柱が龍のように教室内を駆け巡り、あっという間に火の海となった。
「__先生」
ようやく椅子から立ち上がった片平は「もう、やめて」と顔を歪めて訴える。
僕の愛しい生徒。
僕が、片平のためにできることは1つしかない。
「片平洋子」
名前を呼ぶ。
驚きが、片平の顔の中で弾けた。
「__はい」
返事をするがすぐに「片平洋子」と名前を呼ぶ。
炎に包まれて焼け死ぬよりは、名前を呼ばれて返事をしないほうが、まだ幾分か楽だろう。
そんな僕の慈悲だったが、片平は返事を続ける。
「片平洋子」
「はい」
いくら名前を呼んでも、黙っている様子はない。
もう、逃げられないというのに。
それなのになぜ、片平の目に力が宿っていくのだろうか?
「先生、言いましたよね?」
その瞳の中も、燃え盛っている。
強い光を放ちながら__。
「最後の1人は助けてくれるって」
「ああ、確かに言ったが、今となってはもうどうしようもない。片平には本当に悪いが、ここで僕と一緒に__」
「わかりました」
僕の言葉を遮った片平は、1つ頷いた。
もう逃げ道がないと諦めたのか?でも、それならどうして笑っている?
どちらかというと、生徒の中では中立の立ち位置で、僕のことも蔑むこともなかった優良児の片平の唇が、とても意地悪くつり上がっていた__。



