「知念瑠璃」


その声で、矢井田さんに馬乗りになって振り下ろすナイフがぴたりと止まった。


知念さんが、ゆっくりと振り返る。


その顔は返り血で真っ赤に染まっており「はい」という返事は、とても小さくて震えていた。


「先生、まさかこんな奴の言うこと、信じないよね?」


「瑠璃?」


「うちのこと、信じてくれるよね?」


這って先生のもとへと向かう知念さんは、必死だった。


身の潔白を、必死で訴える。


もし矢井田さんの言うことがうそなら、ムキになる必要などないというのに__。


「じゃ、これはなんだ?」


そう言って先生が突き出したのは__スマホ。その待ち受け画面に、知念さんが写っている。仲良く頬と頬を寄せ合っていた、猪俣くんと。


猪俣くんの死体から、携帯を探し当てたんだ。


「僕を、裏切っていたのか?」


そう言って、冷たい目で見下ろす。


「う、うちは、うちはなにも、知らない。こんなの、うちじゃない。こ、これは、無理やり、そう直樹に無理やり!」


「直樹?」


「ちが、違う!先生、信じて。うちのこと信じて!」


足元にすがりつく知念さんの頭を、やがて先生は優しく撫で始めた。


潤んだ瞳で、先生を見上げる。


その顔が、苦痛に歪む。


先生の手が、知念さんの首を絞めつけたからだ。