ふっと、私を押さえ込む力が弱まった。
「うそ、でしょ?」
そう言って、矢井田さんは私の顔を見下ろしつつ覗き込む。
突拍子もない事実だが、鼻で笑うどころかフリーズした矢井田さんには、なにか思い当たることでもあるのか?
「私、見たのよ」
「なにを?」
「あの放送室で見たの。みんなが出て行ってからスマホを取りに戻った時、この教室に仕掛けられた監視カメラの映像に、2人が映ってた」
そう、映っていたんだ。
立ち上がった先生と、知念が【キス】をしているところを。
「猪俣くんが協力者だと言ったわ。でも、先生を後ろから殴った猪俣くんが、芝居をしていたとも思えない。手加減をした殴り方じゃなかった」
「確かに__死んでてもおかしくない勢いだった」
「だから、どうせ私たちは助からない。はなから先生は、知念さんを生き残らせるはずだから」
「そんな__」
呆然と呟く矢井田さんの体から、力が抜ける。
だが、次の瞬間、体が強張った。
「バレたか」
と。
知念瑠璃の笑顔が、飛び込んできたんだ。
あれだけ泣いて怯えていたのに、まだ涙の跡があるのに、知念さんは笑っていた。
矢井田ミキの脇腹をナイフで刺し込みながら。



