「んー!んん、んーっ‼︎」
口を押さえながら呻き声を上げる北野は、後ろに勢いよく倒れ込む。
多量に滴る、自分の血に滑ったんだ。
糸の切れた人形のように、のたうち回る。
「べっ‼︎」
矢井田が、咬みちぎった肉片を吐き出して言った。
「先生、これで返事ができないはずだけど?」
口の周りの血を拭いもせずに。
足をばたつかせて体を反り返らせる北野の顔は、全部が赤くて__。
助け寄ろうとした俺の足が、止まる。
「北野義雄」
その時、弓矢の弦のように限界まで北野の体がしなった。
そして、そのまま静止する。
返事ができないまま。
北野は死んだ。
「顔、洗ってきてもいい?」
返事を待つこともなく、教室から出て行こうとする矢井田。
「本当に、好きだったの?」
その背中に、洋子が声をかける。
入り口で止まった矢井田ミキの背中が、ほんのわずかに震えた気がした。
本気なら良かったのか?
ウソなら良かったのか?
どういうつもりで洋子が確かめたかったのかは分からないが、矢井田は答えることなく教室から出て行った。
「1回戦、矢井田の勝利」
という声に見送られながら。