お願い?
誰もが【?】と、矢井田に視線を注ぐ。
「お願いって、なんだ?」
あくまで優しく声を掛ける北野は、すがりつくように手を掴む対戦相手を気遣う。
正々堂々。
北野はそういう男だ。
「わたし、わたし」
なんとか言葉を繋いでいるが、なかなか核心には迫らない。
泣き止んではいるが、言い淀んでいる様子だ。
「俺で力になれるなら、なんでも言ってみろ」
「うん、わたし」
目を伏せた矢井田が、意を決して顔を上げる。
「わたし、北野のことが好きなの」
「えっ」
「ずっと前から、北野のことが好きだった」
再び床に視線を落としたのは、照れ臭いからだ。
まさかの告白。
こんな時に?いや、こんな時だからこそ、自分の気持ちを打ち明けたんだろう。
もう最後だから__。
「本当に?」
心底、驚いている北野は、女心とは距離が遠い。
だからモテるわけなんだが。
「ずっと、北野のことが好きだった」
「ありがとう」
「だからお願い」
「ん?」
「キスしてほしいの」
「えっ⁉︎」
思わず身を仰け反らせた北野だったが、立ち上がった矢井田が迫り寄る。
「最後に、キスしてほしいの」



