「それは__」


北野が弱々しく俯いた。


「戦うことも負けることもしないなんて、まるで駄々をこねる子供だな。まだ矢井田のほうがやる気があるみたいだが?」


その言葉通り、矢井田は震えているものの、その眼差しは力強い。


ただ、武道の心得がある北野とやり合っても勝てるわけがないんだ。


真っ向からぶつかれば、いくら北野が女性に手を上げないとはいえ、勝てっこない。


「矢井田、ジャンケン、しないか?」


「えっ?」


「それならお互い、恨みっこなしだろ?」


「でも__」


難しい顔で考え込む矢井田は、踏ん切りがつかない様子だった。


それもそうだ。


ジャンケンで負けるということは、イコール【死】に直結しているのだから。そう易々と決められるものじゃない。


でも完全に、北野は争うつもりがないらしい。


空手一筋で育ってきた一本気なところは、融通がきかないが好感はもてる。


無骨で不器用だが、その実、甘い顔立ちで女生徒に人気があった。


けれど北野は、空手に一途なため言い寄ってくる女子を相手にはしかなかったが__。


「時間はまだ充分にある。2人でゆっくり相談するんだな」


呑気な物言いだが、生死を話し合うわけだ。


どっちが生き残るのか?


どっちが名前を呼ばれて死ぬのか?