「黙れ‼︎」
思わず怒鳴って今井を睨みつけると、俺の声に驚いた諸岡の体が揺らめいた。
「危ない!」
誰かが叫んだが、窓枠を掴んで踏みとどまる。
教室が大きなため息をつく。
「ほら、みんなもお前に死んでほしくないんだ」
「騙されるな」
「お前は黙ってろよ!」
「いいか、諸岡。お前は生贄に選ばれた。ここにいる半数が、お前に死んでほしいと名前を書いた。それは開票した本人が1番分かってるだろう?」
「こんな奴の言うことはきくな!」
「お前を説得する振りをして、全員で殺すつもりだ。1人、生贄に差し出せばあとは助かるんだからな」
「諸岡、俺を信じてくれ!」
俺と今井に挟まれた諸岡は、髪の毛を搔きむしり苦しげに呻いている。
「分かった。確かにここにいる何人かは諸岡に投票した。それは事実だ。でも、俺は死なせない。お前のことを、絶対に死なせない」
そう心から強く願った言葉は、諸岡の視線を捉えた。
「__本当か?」
「ああ。俺を、信じてくれ」
そう言いながら、少しずつ歩み寄る。
諸岡の、壊れかけている【心】まで、あと少し。
泣いている、俺たちのクラスメイトに向かって手を伸ばす。
やがて、手と手が触れ合う。
心に触れることができた、その瞬間__。
「諸岡つとむ」
無慈悲で非情な声が、その名を告げた。
絡まった指が、解けていく。