「お前はみんなに選ばれたんだ。胸を張れ」
生贄の耳元で囁く今井は、嬉しそうに何度も肩を叩く。
事実を受け入れることができないのか、諸岡は目を泳がせて首を振る。
なにかの間違いだと、こんな酷(むご)いこと、人間のすることじゃないんだと。そ、そうだろ?普通は白紙で出すもんじゃないのか?それなのに、俺を___。
「し、仕方ないじゃん‼︎みんなが助かるためだし」
篠塚有里華が、へらへら笑いながら言った。
仲間の矢井田ミキにも同意を求めると「うん、これでみんな助かるんだし」と、言い放つ。
「待ってくれ、諸岡。これはなにかの__」
「間違いじゃない‼︎ここにいる全員が、お前を差し出して助かるつもりだ。だからもう、諦めろ」
今井が優しい声を掛けて励ますが、待っているのは、死。
諸岡の目から、絶望の涙がこぼれる。
「そうだ、それでいい。クラス全員の総意だからな」
「__けるな」
「ん?」
「ふざけるな‼︎」
突然、諸岡が鋭い声を上げ、教師面して肩を抱いていた今井を突き飛ばす。
「ふざけるなふざけるなふざけるな‼︎」
吠えるように繰り返すと、今にも噛みついてくる勢いだ。
「諸岡、落ち着け」
「こっちに来るな‼︎」
がなり声を出して後ずさるが__背中が窓に触れる。
諸岡は、手すりに足をかけた。



