「諸岡、つとむ」
諸岡が、自分の名前を読み上げる。
その声は弱く、枯れて震えていた。
2票が入ったんだ。
「まだたったの2票じゃないか。ほら、次」
軽口で励ます今井は、この状況を楽しんでいるようにしか思えない。
諸岡が視線を泳がせて、開票用紙を摘まみ上げる。
開く。
視線を落として確認する。
その目が、見開かれた。
「__諸岡つとむ」
しばらくして、チョークが削れる音がする。
書記の和田カレンが、名前の下に線を書き込む。
3票が入った。
俺と小金沢と洋子は【今井】に投票した。残るは、猪俣、北野、諸岡、篠塚、知念、矢井田、和田の7名。諸岡が自分に投票するはずがないから、実質、あと1票が入れば__生贄は決定してしまう。
俺は周りを見回した。
全員が、俺と目が合うと慌てて視線をそらす。はなから俯いているやつもいる。
偶然なんかじゃない。
諸岡はおとなしいが、標的にされるようなやつじゃない。
そうなると、考えられるのは一つ。
示し合わせて、諸岡を選んだんだ。
生贄にするために。
自分たちが__自分が助かるために、クラスメイトの命を売り渡す。
それでもまだ望みはある。
残りの票があと一つでも、今井に入るのなら。
全員が、諸岡を食い入るように見つめていた。
投票用紙を確認する、生贄を__。