強張っていた諸岡の表情が、少しだけ和らいだ。
反対に今井は、頬を震わせて怒っていた。俺たちを睨みつけ、次ももし馬鹿にするなら殺してやるという殺気まで伝わってくる。
侮辱。
生徒にコケにされるのが、許せないのだろう。
怒りが、冷静さを奪い取り、必ず付け入る隙が生じる。
その時を待つんだ。
諸岡が、期待を込めて表情で投票用紙をひらく__。
「っ⁉︎」
一瞬にして、柔らかかった諸岡の顔にひびが入る。
「なんだ、またか⁉︎」
憤怒した今井が投票を確認すると、その表情が元に戻っていく。
なんだ?
なんて書いてある?
まさか__?
「これでいいんだ、これで」
そう言って突き出された紙には【諸岡つとむ】と書いてあって。
だから諸岡本人は絶句したんだ。
自分の名前が書かれていたから__。
「ほら、次を開票するんだ」
今井から怒りが消え、かわりに余裕が生まれる。
誰かが諸岡の名を書いた。
それはでも、仕方がないことかもしれない。誰か1人を生贄に捧げれば、残りは助かるのだから。
腕を小突かれた諸岡が、投票用紙に手を伸ばす。
せめて票が分散すればいい。
そうだ、誰かの名前を書かなければいけなくて、その誰かが、たまたま諸岡だったに違いない。
たまたまの1票なんだ。