がたん。
最初に聞こえてきたのは、物が倒れる音。
次になにかが落ちる音と、激しい息遣い。
すぐに、誰と誰かが争っているんだと分かった。
教室の俺たちは、今井も含め完全に動きを止めてスピーカーから聞こえてくる音に耳をすませる。
「ど、どうして⁉︎」
急に教室に割って入ってきた言葉は水口のものだ。取っ組み合いながら「どうして⁉︎」と問うている。その相手__放送室で今井を手助けしていた奴にだ。
「ねぇ、もしかして?」
洋子が声を潜めて言った。
一字一句、聞き逃さないというのだろう。
でもこの時点で、ほとんどが気づいたんじゃないか?
水口の物言いは、顔見知りへの問いかけだと。
もし見も知らぬ他人なら、どうして今井に協力しているのか?と尋ねるわけがない。知っている人間、つまりクラスメイトじゃないのか?
ただ、その相手は声を出さずに水口と組み争っている。
「な、なんとか言いなさいよ‼︎」
水口が相手を追い詰めたのか、雑音が消えた。
おそらく、ハサミを突き出したんじゃないか?
誰かとにらみ合っている張り詰めた空気が、スピーカーを通して教室にまで充満する。
じりじりと、焦げつくような時間。
「動かないで‼︎これ以上、誰の名前も呼ばせないから!」
水口が制止するが、すぐに2人はまた組み合ったようだ。
歯を食いしばる音や悲鳴、それに混ざって声が聞こえてきた。
協力者の声が。