「どうした。そんなに慌てて」

「……愁さん」

「電話してたのか? 声が聞こえたが」

「…………」

「また顔色悪くなってるぞ、ユウ」


シャワーから戻ってきた幻さんは

女の子と、部屋にいるの……?


二股って……?


「……ちがう」


幻さんが、そんなことするわけない。

でも。


あのヘルメットをもらうとき

値札が、なくて。


いずれ買い取るつもりだって言っていた。


今、一緒にいる子に

プレゼントしたかったものなの……?


「とりあえず部屋戻らないか」


もしも。


「横になった方が――」

「幻さんが、わたしのことを好きじゃなくなったら」


それは、考えたことのない未来。

幻さんを失うという未来。


「ここには、いられなくなるんですよね。みんなと、お別れして。家に、帰るしか……」


声が震えてしまうのは

帰るのが、怖いからじゃない。


幻さんに

『いらない』って言われるのが、怖い。


「なに言ってんだ。幻がユウのこと見放すわけないだろ」


強くなりたいのに。

強くなきゃいけないのに。


「なにを信じればいいか、わかりません」