きっと燐さんは、愁さんのことを

“苦労なしのお坊っちゃん”なんてもう思ってなくて。


愁さんが努力していることも

苦労していることも、理解できているのだろうなと。


だからこそ、自分に厳しい。

このくらいの努力まだまだって思うわけですよね?


「で。なにがあったの」

「え……」

「宗吾の他に悩みがあるんでしょ」


燐さんの言葉に心臓が大きく波打った。


「むしろそっちのせいで落ち着かないんだよね。なにか用事していなきゃ心を保てないのも、ボクのいるリビングにいたいのもそのせいかな」

「……はい」

「まずは今日のドライブデートの話から聞こうか。ねえ、ユウちゃん」

「…………」


愁さんも、燐さんも。

二人とも心配してくれているのに、なにから説明していいかわからない。


「幻のこと?」


どうしてわかってしまうんだろう。


「幻さんは……サトルさんのこと、知っていたのでしょうか」

「知ってたかもね」

「そうですか」

「まあ、有名人だからね。サトルは」


(……有名人?)


「サトルがどうしたの」

「殴って、ました」


燐さんから笑顔が消える。


「嘘でしょ。幻のやつ、ユウちゃんの上司に手を出したっていうの?」


わたしは頭を横に振る。


「それじゃ、幻が殴られた……ってこと?」

「はい」