この世のものの多くが人間に動かされているなんて当たり前の事実なのに、改めて考えると凄いことだ。


この部屋のある階まで上がってきたエレベーターも、そのパソコンだって。

元は金属だったりするし。

そこに、命を吹き込む――っていうとちょっと違うかもだけど。

思うままに動かすための信号は、やっぱり人間が送るんだよね。


「せっかく時間できたし覚えてみようかなと」

「独学で、ですか?」

「そういう仕事してる知り合いがいるんだ。おかげで学校通うとかかる授業料がゼロ」


燐さんの人脈って本当にすごい。


「そのうち仕事まわしてってお願いしてある」

「さすがです」

「健全なお付き合いでしょ?」

「はい!」

「そのかわり、やつの愚痴も聞いてあげながら……とかになるんだけどね」


“やつ”って、どんな人なんだろう。男の人かな。


「いい関係ですね」

「ウィンウィンってやつさ」


燐さんがまた一歩、前に進んでいる。


「愁には学びたくないみたいなこと言ったけど。ボクだって遊んでばかりいるわけじゃないんだから。義務教育を受け直す以外にも道があっていいと思わない?」

「ふふ。愁さん、このこと知ったら喜びますね」

「えー? 言わなくていいよ」


言いましょうよ。

もっと好きになると思いますよ。燐さんのこと。


「あっと驚かせるようなことできたら話すよ。そうでなきゃ自慢にもならない」