「話してみると、いいやつだね」
いいやつ、と言われてもピンとこなかった。
「喧嘩っぱやいなんて嘘じゃないか」
「売られたら……即買うがな」
「でもさ。この学校のやつ誰も殴ったことないだろ。ちゃんと、ゴミはゴミ箱に捨てるしな」
「それは当たり前だろう」
「はは。やっぱりそういうところに出るよね、育ちがいいと」
稔は、俺の家柄を知っていた。
「ごめん。実は、春先にランニングしてたとき、たまたま高清水の姿を見かけて。気になって、あとをつけたんだ」
――高清水 幻(たかしみず まほろ)
それが、当時の俺の名だった。
名家で生まれ育った俺は
無駄に広い屋敷にひっそりと身を隠すように生きていた。
黒梦とつるむ時間だけは、その環境から抜け出せていた。
俺の遅刻、早退、理由もない欠席を問い詰められなかった理由は、そこにあった。
教師に。学校に、俺の家からの大きな圧力がかけられていたのだ。
「なあ、高清水」
「なんだ」
「せっかく高校生なんだし青春しよーぜ。俺とこの夏は思い出作ろう!」


