「桃ちゃんって呼んでいい?
俺のことは郁人って呼んでね」

「う、うん…」


彼の猛スピードのトークに圧倒されながらも、流されて頷く。


郁人くんは「数学が本当にできないから今度一緒に勉強しようよ」みたいなことを話しているうちに友達を見かけたらしく、「またね!」と手を振って去って行ってしまった。



……なんか、台風のような人だな。


急に静かになった廊下に、ほっと息をついて教室に戻る。



「……勉強、しなきゃ」




できれば、茜くんに教えてもらいたいけれど。

茜くんじゃないにしても、誰かに教えてもらわないと、もう自力では分かるようにならない気がするけれど。


それでも茜くんにだけは留年しそうなことがバレてはいけない!

だって茜くん、バカな女嫌いなんだもん…!