「……なに、思い出したの?」
眉を下げて、目を細めて。
大好きなきみは優しい顔をして、私の顔を覗き込む。
「わ、私のために……お医者さんになろうとしてたの?」
どしゃ降りの雨の中。
茜くんは、ふっと笑った。
「そうだよ」
どうして、忘れてたんだろう。
あの時は、本当に苦しくて。
今でこそ明るい性格だけれど、あの時は毎日が楽しくなくて。
だから私は、昔の記憶があまりないんだ。
辛かったことを、忘れようとしたんだろう。
幼稚園の頃のことなんて、全然覚えていない。
こんな、幸せなことがあったのに。
「まあ、俺が治す前にちゃんと元気になってて良かったけどね」
「っ、ごめ……」
忘れてて、ごめんね。
茜くんが、頑張っているきっかけが自分だったなんて。
そんなの全然、考えたこともなかった。



