「……え、」
ざわざわとした人混みの中で、ざあざあと降る雨音の中で。
きみの小さな声だけが、私の耳にはまっすぐに届いた。
私の方を見て、驚いたように目を丸くしている茜くん。
そんな茜くんにつられてこちらを向いて、少し眉をしかめた雪音ちゃん。
じわり、と目の奥が熱くなって。
きゅっと、痛いくらい唇を噛んで。
ケーキの袋を持ったまま、雨の中に飛び出した。
茜くんにとって、私は、いつも話しかけて来ていたうるさい女で。
そんな私がしばらく会いに来ていないことなんて、茜くんの中では大した問題じゃなくて。
私がずっと会いたくて、泣いてしまうくらい会いたいと思っていた時間にも、茜くんは私のことなんて思い出しすらしなかったんだろう。



