3秒後、きみと恋がはじまる。




「っ、茜く……」



こんな人混みの中でも、一目でわかった。

雨の湿気で少しセットの崩れた、ふわふわの黒い髪。
紺色のカーディガンがよく似合う彼。



彼は、黒くて大きな傘を広げて。
それから、隣にいた白雪姫みたいに綺麗な彼女を、傘に入れた。



ドン、と突き落とされたように目の前が真っ暗になった気がして。

私がいることに気付かない茜くんは、雪音ちゃんを傘に入れて。



雪音ちゃんの綺麗な黒髪は、雨が降っているにもかかわらずサラサラでクセがなくて綺麗だ。

私の茶色い髪は、湿気を含んでくるくるに巻いたのが取れてしまっている。





……こんな時に、会えない。



茜くんに会う勇気が急にしぼんで、私は視線を落とした。



私は、ずっと茜くんを待っていたけれど。

茜くんはそんなこと知らずに、雪音ちゃんと並んで歩いている。





……お願い、気付かないで。

こんな惨めな私を、見つけないで。