「っ、茜く……」
こんな人混みの中でも、一目でわかった。
雨の湿気で少しセットの崩れた、ふわふわの黒い髪。
紺色のカーディガンがよく似合う彼。
彼は、黒くて大きな傘を広げて。
それから、隣にいた白雪姫みたいに綺麗な彼女を、傘に入れた。
ドン、と突き落とされたように目の前が真っ暗になった気がして。
私がいることに気付かない茜くんは、雪音ちゃんを傘に入れて。
雪音ちゃんの綺麗な黒髪は、雨が降っているにもかかわらずサラサラでクセがなくて綺麗だ。
私の茶色い髪は、湿気を含んでくるくるに巻いたのが取れてしまっている。
……こんな時に、会えない。
茜くんに会う勇気が急にしぼんで、私は視線を落とした。
私は、ずっと茜くんを待っていたけれど。
茜くんはそんなこと知らずに、雪音ちゃんと並んで歩いている。
……お願い、気付かないで。
こんな惨めな私を、見つけないで。



