「そっちが謝れよ」



茜くんの言葉に、周りにいた人たちもヒソヒソと話し始める。

「私も見てた。女の子はぶつかってないよ」
「自分の機嫌が悪いからって、最低」


おじさんは決まり悪そうに顔を歪めて、チッと舌打ちをして去って行ってしまった。



「茜、くん」

そう読んだら、何、ってちらりとこっちを見た。


それが嬉しくて。
茜くんに会えたことが。
茜くんと話せたことが。

そして何より、茜くんが助けてくれたことが、嬉しくて。


じわり、と目に涙が浮かぶ。





「茜くん、」




もう一度名前を呼んで、その顔を見上げて。

やっぱり好きだなぁって、思ってしまった。




「ありがとう」


「…はいはい」



呆れたような顔も、仕方ないなって声も。
全部、好きだ。


きみのこと何にも知らないけど。
きみのこと、好きになってまだ少しだけど。


それでもこんなに好きになってしまったんだから、こらから先、もっとずっと好きになってしまうんじゃないかって、少し怖くなってしまうくらいだよ。