「せっかく取ってきたのに」
と呟き、芽以は、逸人の手にある眼鏡ケースを見つめていた。

 かけてくれないかなー。

 絶対、似合うよなー、と思っていたのだが、それを言うのも恥ずかしく、なんだか言い出せなかった。

 チラと裏口の戸を見る。

 外に圭太が居たようだが、もう帰ったようだな、と思いながら。

 何故、なまはげ扱いなのかは知らないが……。

 圭太も会社を継いだり、嫁姑の間に入ったりでいろいろ大変そうだから、逸人さんに愚痴りたかったのかな、と思う。

 だったら、中に入ってくればいいのに。

 上手くいかなくて落ち込んでいるところを人に見られたくないのだろうか。

 ……それにしても、磨くと言ったくせに、この人、ケースからも出さないが、と思いながら、芽以は、厨房の棚に置いたまま、明日の仕込みの確認をしている逸人を眺めていた。